酒蔵探訪〜酒田酒造〜 後編

では蔵の方を観て頂く訳ですが、簡単に蔵の造りを2~3説明させて頂きますと、限定吸水といいまして米を最初に洗う作業を観て頂きます。ざるに米をそれぞれ10kgずつ分けて洗って水を吸わせます。

一番大きい仕込みが1,000kgの掛米の仕込みがあるのですが、それも10kgに分けて洗いますので100回の作業を延々とやります。

単調なのですけれど一番大事な作業なので、すべての10kgを同じパーセントで水分を吸うようにブレずにやるのが大きな特徴です。
以前は300kgくらい入る桶にお米と水を張って「よーいどん」で水を抜いてというのをやっていたのですが、それをやめて限定吸水にしてから非常に酒質が上がるようになりました。

あとは貯蔵用の温度管理ができるサーマルタンクの保有台数が日本で一番持っています。
お酒は大体できたては美味しいので、後はそのお酒がお客様のお手元に届くまでいかに管理していくかというのが蔵本にかなりのウェイトを占めているなと思っています。

一番は瓶で貯蔵していて、瓶に入らないお酒はタンクで貯蔵しています。-5℃から上は30℃まで、0.1℃刻みで管理できるタンクで1年経とうが2年経とうが、とにかくお客様の手元に届くまでは少なくとも蔵で100%の状態で管理するのを目標としています。

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── お米は何種類あるの?

今年は28種類です。種類はうちが一番使っています。多いところでも15種類くらいかなと思います。

これが「枯らし」といいまして、精米が終わった直後はお米に熱が残っていますので2週間くらい置いておきます。隣町にうちの蔵の精米所がありますので、そこで精米をして2週間経ってすぐ使うようなお米がここに入っています。

ここにあるだけでも富山の山田錦と、はえぬきは食用米ですね。あと出羽燦々。美郷錦と酒こまちは秋田産で、神力は福井県。美山錦はうちの社長が農家なので自分で作っている米ですね。

では、ここからスタートします。ここからはうちの蔵人が案内します。

── よろしく。

大手のブランドさんだと大きいタンクにお米と水をジャバンと入れて、そこで洗米と吸水をする訳ですけれど、一番最初と最後のお米とで何秒かの違いでも吸水のパーセンテージが違ってくるんです。すると蒸した時に均一に仕上がらないんです。今から10kg単位で測ります。

多い時ですと1日1tですので10kgを100回の作業です。体力的に上げたり下げたりするので、まあ彼が一番若いので、いくらでもこき使ってます(笑)。

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今は美山錦の50%の添え掛けです。そっちが出羽の里の80%です。(お米が)そちらに行くので道を開けてください。

この作業をひたすらやっていく訳で、使うお米も1日3~4種類あります。違うお米ですので吸水させる時間も違いますし、精米歩合によっても変わってきますので、本当に1秒単位で上げたりという作業をしています。

今はまだ全部埋まってないので、こんなにゆったりしていますけれど、おそらくあと30分くらいしますと“てんやわんや”です。この水を捨てて入れ替えてという作業もありますので。常に新しい水でやります。そうして一回ずつ時間が 合っているかを確認して5分から10分完全に水を落としているところです。

うちの就業時間は8時半です。他の蔵元さんで早いところですと5時半や6時スタートとかあると思うのですけれど。8時半スタートでも6時でも、できるお酒の質は変わらないです。

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基本的に蔵人さんも普段は農家さんでして、造りに入るとうちに来て頂いているという方が多いのですけれど、だんだん社員の方も増えてきました。そういう風に考えますと安定した時間から始めてというのが長く続けるためのコツでもあるのかなということで、うちでは8時半就業開始です。8時15分に火を入れまして10時前に蒸し上がります。

山田錦の35%とか40%以外はここで放冷機にかけます。山田錦の35%とか40%はここから担いで自然放冷です。どうしても35%まで磨きますとお米の芯が小さいので機械にかけると割れてしまう可能性があるのでそこだけは丁寧にやっています。

連続で金賞を頂いていますので、まずは取ることを目標にしています。しかも他のお酒のレベルも落とさずにとのことで。
建物自体も上を見て頂くと判ると思いますけれど。昔ながらの木造です。

── すごい梁だね。

明治の27年、ここらで大火事がありまして、その翌年に建て直ししています。後でご案内しますけれど、酒母室は震度3位では揺れなかったんですけれど、こっちに居た人間はガタガタ揺れたんですよ。

── 今、こんな材木ないからね。

一本まんまですからね。他の蔵だと入れてくれない所が多い気がするんですけれど、うちは見て頂いてなんぼなので「上喜元ってこんなふうに造っているんだな」と直接見て頂いてお飲みになる方、おいでになる方もひとつ思いを持って頂ければなと思います。うちは何も隠す事がないので全部見て頂いています。

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先ほど蒸し上がりが10時との事でしたので、蒸したお米は麹米はこちらに持ってきまして、午前中仕込んだのがこんな形です。ここで夕方まで保温しまして水分と温度を一定にするために混ぜ合わせをするという作業をします。

翌日の朝8時半に室に集まりまして、このような形で盛りをします。一度は右半分に集めましてある程度温度を弱めてあげます。その後に夕方4時から5時あたりに温度と状態を見つつ水分を一定にしてあげてから山を作ります。そこで個々の温度差を一緒にするためにクレーターを作ります。全てのものが同じ温度になるために一個ずつクレーターの大きさを変えてあげる作業をします。

大きさがバラバラですと翌日の出麹という作業時に麹の出来が一定じゃなくなるんです。そこの見極めがあるので、私が麹番でして基本的に他の人にはやらせたくないというのが本当ですけれど、そういう訳にはいかないので、やって頂くときには指示をさせて頂いています。

夜の9~10時あたりになりますと最後に仕舞いと言いまして、このような形で乗せてあげておしまいとなります。もう出麹の時間です。これはもう食べられますね。大体栗っぽい味がします。もうそろそろ時期ですね。これが出羽の里の80%です。程良く甘味も出てます。

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── ああ、甘い。

 そろそろ出してあげて明日の朝までに水分と温度を飛ばしてあげます。
山田錦などの高精米のものは箱ではなくて蓋で作業します。この間も出羽燦々の40%を引き込みました。山田錦の35%は1月の半ばに麹の引き込みを始めましたので、2月末くらいに来て頂くと私もピリピリしています(笑)。

大体安定して32.5℃を保っています。湿度もなるべくなら30~40%にしておきたいのですけれど、これだけ麹が入っていてなおかつ人間もいると、しばらくすると40~50%になります。それを取り除いてあげないと変に温度が上がってしまって麹としては形は成るんですけれど、中身がしっかりしない腑抜けな状態になってしまいます。
湿度と温度を一定にしてあげるというのが麹番の仕事です。

── 温度が変わるから本当は部外者を入れたがらないんだよね。

まぁ、うちはそんなヤワな麹をしていませんので(笑)。
この部屋で一晩麹を乾かしてあげまして、翌朝使用します。

うちで大体2週間、12~14日かけまして酵母を増殖させてあげて、醪になってからしっかり発酵してくれる状態にします。
これは先ほどの秋田のお米「酒こまち」、初めて使うのですけれど、45%の純米大吟醸として出荷するだろうと思います。もうそろそろ香りが…、こちらの雄町だと香りが立ってきてますね。思い切り吸うと多分意識が飛びます。

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── ツーンと来るよ。やっぱり良い香りだね。

育て方も3℃上げて2℃下げるというジグザグの経過をたどります。最初のうちは酵母の発達というよりは、酵母が栄養を採れるようにお米を溶かして食べられる状態を作ってあげる作業が2日間あります。その間は自然な流れでお米を溶かして3日目くらいから徐々に温度を上げて、ちょっとずつ元気をあげつつ、お米を溶かして栄養を作りだしてあげます。

酵母は基本的に山形KAを使ってますが、単独では使いません。パターンでいうと4~5種類ですかね。そうすると並べて飲んで頂くと、どのお酒を飲んでも「上喜元のお酒だって何となく判るよね」というふうになると思います。

── 「らしい」というのはあるよね。「ああ上喜元だ」ってのがね。

ここもむこうからそこまで立派な柱になってまして、これが3本あるんです。ここで作業していた人は地震の時あまり揺れを感じなかったそうです。

── 昔の家の造りってすごいんだね。この梁だけですごいね。築何年くらいになるの?

これで150~160年ですかね。

── 生まれてなかったな(笑)。

もうひとつこちらが生酛部屋です。部屋を分ける理由というのは、先ほどの部屋は速醸系なので乳酸を入れて雑菌からガードするのですけれど、こちら生酛は乳酸を入れないので雑菌にやられないように保護しています。

生酛は昔から美山錦と雄町でやっているのですけれど、今年は初めて八反という広島のお米で50%の純米吟醸を造っています。今日留め仕込みが終わったので一ヶ月後に上槽ですね。寝かせるのか生で出荷するのか、どのような商品になるかはまだ判らないのですけれど。

── まだまだ新しいお酒が出てきそうだね。

ほんとうに夢なんですけれど、一度うちのお酒を全種類並べて飲んでみたいんです。でも60種類くらいありますので大変ですね。

1週間後にはこの槽で搾ります。ここに袋を積み重ねていくという作業なのですけれど、この方法と吊りの方法ですと3種類のお酒が採れます。あらばしり、中取り、せめですね。せめばかり集めている酒販店さんもいらっしゃいます。
あちらのヤブタで搾るのと、こちらの中取りを飲み比べてみると本当に味わいが違いますね。ただかかる時間と労力が半端無いので、本当は全部ヤブタでやりたいところなんですけれどね。その中で厳選して10種類くらいは槽を使っています。

── 最初の一滴と、最後の一滴なんてお酒もあるからね。

これも12月半ばすぎから2月くらいになると本当に運が良いと、これのしぼりたてが槽口から出てくるのを見られるのですけれど。
毎年利き酒をすると感動しますね。ヤブタだと「今年も良い出来だな。」という感じですけれど、こちらの槽だと違います。

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ここで醪を造って搾ります。大体2週間、全体で1ヶ月と24日間くらいかけてお酒を仕込みます。
レギュラー酒に関してはこの大きなタンクを使っています。その小さなものですと1,800リットル、亀の尾とか純米吟醸レベルですと900リットルの小さなものですね。

今日お車の方は?

── ひとり。

ではその方には本当に申し訳ないのですけれど(笑)、純米大吟醸の山田錦50%を味見して頂きましょう。これはおそらく12月の3週目くらいに搾れてくると思います。

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── 味がしっかりしてる。プチプチしてるね。

おかわりはまだこれだけありますので(笑)。

── 残さないで飲んでね。
── 身体に良さそう。炭酸のピリピリ感に嫌味が無いですね。

酸性がとても高いですね。だから昔の70~80歳くらいの杜氏さんは、ほとんど歯が無いそうです。

掛米を運ぶ時も小仕込みのものになると担いでその階段を駆け上がってますね。
大きいものですと1tを一回に仕込みます。

── 転ぶ人いないの?

お恥ずかしながら私、この間転びました(笑)。言い訳になりますけれど、この蔵は古いので継ぎ接ぎだらけなんです。米だけは守らなければと顔からズバーッといきました。

── 身体よりも米。

「絶対に米は“ほかせねぇ(捨てられない)”」と。しかも山田錦だったんですよ。

── うちの前の店の2階のカラオケルームにもの運ぶ時にバイトが階段でコケて、でもものだけはしっかり持ってるんだよ『守りました~!!』って。

そんなものですよね。

── しかし20種類以上の米なんて他の蔵には無いよね。

山田錦だけでも35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%と8種類ありますからね。

── それ全部店に置けといっても無理だもんね。

無理でしょうね。その中でもかいつまんで頂ければ、それで楽しみがあるかなと思います。

── 酒屋でも全部置いているのは無いからね。その中で何種類かを入れるくらいで。山形市内の酒屋全部集めたって無理だもん。

これは昨日のしぼりたてです。富山県の雄山錦というお米で55%精米の純米吟醸です。

── うん、良いね。

今日で12号までしぼりました。おそらくあと60本位はしぼらないとですけど。

── これでアルコールはどのくらいあるのですか?

原酒で17.1%です。最近の原酒って度数を抑えているんです。18~19%でお酒が出来た後に加水して16.5%程度に抑えるのと、原酒の段階で17%や16.8~16.9%にして加水で16.5%にするのとでは、お酒の濃度が違ってくるんです。

なぜそれが出来るのかというと、醪の段階で3日前位に「割水」という訳ではないのですが水を入れてあげるんです。そうするとアルコール度は薄まるのですがお酒の濃度自体は変わらないんです。搾った後のお酒に加水すると味が薄まるんですよ。
最近の蔵元さんが出しているお酒というのはおそらくこの方法を使っていると思います。

── 原酒でもそうだもんね。なんでこんなにアルコール度が低いの?って思ってたもんね。

原酒って18~19%だろうって思い込みがあるので物足りないなという感があるのですけれど、なかなか量が飲めないんですよね。16~17%程度なら2~3合や4合位は飲み続けられるかなと思います。
最近はうちとしてもその方法で造っています。仕込み33号も16%後半の生原酒です。16%といっても加水している訳ではないので、そこのところよろしくお願いします(笑)。

── 15%のお酒もあるしね。原酒じゃないけど。

本来は搾ってすぐ瓶詰めできれば良いのですけれど、普通の温度管理が出来ないタンクですと寒くても5℃くらいにはなるんです。すると熟成がはじまるのでそれを止めるために-3℃~-5℃くらいで置いてなるべく搾りたての状態を保てるようにします。
明日には先ほどお飲み頂いたお酒も瓶詰め作業です。3~4日後に瓶詰めすると開封した時に若々しさがないんです。開けたての時にガス感があった方が良いお酒かな、というのが最近多いのかなと思います。なんとかこのようにお酒が出来て良かったです。ほっとしました。

── 今日はお忙しいところありがとうございました。

酒蔵探訪、酒田酒造の後編でした。
次回は置賜へ、南陽市の東の麓酒造の見学の様子をお送りします。

用語メモ

※ 思い切り吸うと多分意識が飛びます。

仕込みタンク内で酵母が活動している間、炭酸ガスが発生します。この炭酸ガスは空気より重いため、タンク内部に充満しており、香りを嗅ごうとするとこの炭酸ガスを芳香成分とともに吸引してしまい、脳が酸欠状態となり昏睡する他、最悪の場合、気を失ったままタンク内に転落するという事故が時々あるのだそうです。

蔵によっては、転落防止にタンク上部に柵を設けているところもあります。

※ 15%のお酒もあるしね。原酒じゃないけど。

アルコール度数13%の原酒もあるそうです。また、清酒製法でアルコール度数46%(日本酒度+66!)なんてお酒も存在するようで(酒税法上はリキュール扱い)、世の中広いものです。


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